バケットホイールエクスカベーターは、人類史上最大の「自走可能な車両」です。
その巨大な機体にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
ここではバケットホイールエクスカベーターのメリットとデメリットを解説します。
桁違いのサイズと驚異的なスペックを持つバケットホイールエクスカベーター
バケットホイールエクスカベーターの中でも最大のサイズを持つ「Bagger 293」は、全長225m、高さ96m、総重量14,200トンという規格外の大きさを誇っています。
さらに驚くことに、これだけのサイズでありながら自走することができるのです。
この巨大な建設機械は1920年代から複数のメーカーによって製造され始め、すでに約1世紀もの歴史があり、現在も毎日多くの資源を採掘し続けています。
その姿はあまりに大きすぎて、車両というよりも一つの工場のように感じられ、無骨で巨大な鉄骨がむき出しになった姿はSF映画に登場する要塞のようにも見えるほどです。
そんなバケットホイールエクスカベーターの特徴をつかんでいただくために、どのようなメリットとデメリットがあるのかを順に見てみましょう。
バケットホイールエクスカベーターのメリット
バケットホイールエクスカベーターは、桁違いの大きさを持ちながら自走できるということにより、世界中の露天掘り鉱山で活躍しています。
その他にも、24時間稼働することができるように作業員のための居住空間を確保したり、厳しい気候に耐える仕組みも備えています。
ここでは世界最大のバケットホイールエクスカベーター「Bagger 293」を中心に、メリットをそれぞれ詳細にご紹介します。
大量の鉱石の採掘が可能
バケットホイールエクスカベーターの最大のメリットは、何といってもその採掘能力の高さです。
世界最大のバケットホイールエクスカベーター「Bagger 293」は、一日に24万トンもの採掘が可能です。
20mを超える巨大なホイール(回転体)には18個もの採掘用バケットが取り付けられており、回転ノコギリのように岩盤を削り取っていきます。
この驚異的な採掘能力によってドイツの火力発電所や製造業などの産業を支えており、企業だけではなく国家レベルで大きな恩恵をもたらしています。
「Bagger 293」以外のバケットホイールエクスカベーターも、世界各地の露天掘り鉱山で活躍しており、毎日大量の鉱石を供給し続けています。
巨大な機体を持ちながら自走も可能
バケットホイールエクスカベーター「Bagger 293」は、あれだけの巨大な機体を持ちながら自走できるというメリットがあります。
12本のキャタピラを装備しており、14,200トンもの重量を支えてゆっくり確実に移動します。
移動速度は最大でも分速10mという、人間が歩くよりもはるかに遅いスピードですが、自走できることによるメリットは大きいのです。
露天掘りの鉱山は面積が非常に広く、資源が枯渇するまで地表を掘り進んでいくため、採掘した鉱石を運搬するコンベアなどの設備を建設することは実質不可能です。
しかし採掘の装置が自走可能であれば、場所を選ばず採掘することができます。
この巨大なバケットホイールエクスカベーターは、ドイツ国内で採掘の終了した鉱山から22km離れた別の鉱山まで移動した実績があります。
ただし、このときの移動には70人の作業員と3週間の時間、1500万マルク(約16億3000万円)もの費用がかかりました。
日本で使用されているバケットホイールエクスカベーターはおもにレールの上を走行するように造られているので、キャタピラは装備していません。
それゆえ、自在にどこへでも行けるわけではありませんが、キャタピラ式よりもスピーディーに移動することができます。
バス・トイレ・キッチンを備えている
バケットホイールエクスカベーター「Bagger 293」は24時間稼働することを想定して稼働しているので、運転席の他にもバス・トイレ・キッチンが設置されています。
作業員5人が交替で休憩し、運転を継続することができるようになっているのです。
この巨大な建設機械の中には十分な居住空間があるので、快適に食事や休憩をすることができます。
過酷な寒冷地でも稼働できる
バケットホイールエクスカベーターはドイツやロシアなどの寒冷地で使用されることが多く、そのため極寒の気候にも耐えられる造りになっています。
鉱山は高地に存在していることが多いことも、バケットホイールエクスカベーターが寒冷地仕様として造られている理由の一つです。
「Bagger 293」は、マイナス45℃という厳しい寒さの中でも稼働できるように設計されています。
電力で稼働するため環境に優しい
バケットホイールエクスカベーター「Bagger 293」は、すべての動作を電力で行っています。
稼働するために化石燃料を使用しないので、温室効果ガスを排出しないというメリットがあり、環境に優しい建設機械であると言えます。
鉱山での採掘以外にも応用が可能
バケットホイールエクスカベーターは鉱山の採掘に最も多く使用されていますが、その他にもさまざまな用途に使用されています。
例えば、国際貿易港に搬入する大量の鉱物資源などの運搬や、製鉄所における鉄鉱石や石灰石などの供給、石炭火力発電所における燃料の供給などが代表的です。
ただし、それらのバケットホイールエクスカベーターは露天掘りの鉱山で稼働しているものよりは小型で、日本国内ではスタッカリクレーマーと呼ばれています。
日本のスタッカリクレーマーはレールの上を走行するように造られており、広大な敷地の中を任意の場所まで移動し、資材の運搬や供給などの役目を果たしています。
バケットホイールエクスカベーターのデメリット
バケットホイールエクスカベーターには多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットもあります。
その原因のほとんどは、やはり機体が大きすぎることによるもので、課題の克服のための研究も行われています。
ここではバケットホイールエクスカベーター「Bagger 293」を中心に、デメリットをそれぞれ詳細にご紹介します。
運転には5人の作業員が必要
バケットホイールエクスカベーター「Bagger 293」の運転には5人の作業員が必要です。
1台で多くの作業を同時にこなすことができますが、それには多くの人手が必要で、機体の規模を考えれば仕方ないところです。
また、24時間稼働し続けることを目指して操業しているため、作業員は3交代制で勤務しています。
作業員の負担の軽減も課題となっており、そのために作業の自動化を目指して研究が進められています。
使用するためには広大な敷地が必要
バケットホイールエクスカベーターは露天掘り鉱山での採掘をおもな役割としていますが、あの巨大な機体を使用するためには場所が限られてきます。
特にキャタピラ式で移動するタイプの機体は、露天掘り鉱山の中でもとりわけ広大な敷地を有している場所でないと、機体の大きさを持て余してしまうのです。
製造には年単位の時間と高額な費用が必要
世界最大のバケットホイールエクスカベーター「Bagger 293」は、完成までに5年の年月がかかりました。
また、製造の費用も100億円以上かかったと言われています。
もちろん、それだけの年月と経費をかけて導入することに対する見返りはあり、産出する莫大な量の鉱石の販売によって数年で元は取れるはずです。
新たに設備投資をするだけの価値がある建設機械だと思われますが、導入を検討できる企業はかなり限られてくるでしょう。
大量の電力を消費する
バケットホイールエクスカベーター「Bagger 293」は、すべての動力を電力によって稼働していますが、その消費電力も桁違いです。
定常運転時には16MW(16000kW)もの電力を消費します。
日本では工場でさえも消費電力2000kWを超えれば大規模なほうなので、バケットホイールエクスカベーターは1つの工場よりもはるかに大量の電力を消費していることになります。
いかにバケットホイールエクスカベーターの電力需要の大きさが規格外であることが分かりますが、それに見合った成果も出してきました。
しかし、それだけ大量の電力を消費するということは、発電するための燃料やコストもかかることになり、環境対策の面から見ても問題視されています。
近年は、将来に向けてバケットホイールエクスカベーターの消費電力を抑えるための研究が行われており、コストパフォーマンスの向上を目指しています。
日本の国土には合っていない
バケットホイールエクスカベーターは、あまりに巨大なために、日本の国土には合っていないと言わざるを得ません。
日本は森林が多く、山地も険しい地形が多いため、露天掘りの鉱山が少なく、その規模も海外の鉱山に比べると大きくはないのです。
日本の露天掘り鉱山としては、山口県美祢市にある宇部興産の石灰石鉱山にバケットホイールエクスカベーターが配置されています。
しかし、日本にあるその他の露天掘りの鉱山は、一般的な重機を使用した採掘と大型のダンプトラックによる搬出で、ほぼ事足りてしまいます。
一部の製鉄所や石炭火力発電所などでは、海外のバケットホイールエクスカベーターよりも小型のスタッカリクレーマーが使用されています。
スタッカリクレーマーはキャタピラによる走行ではなく、レールの上を走行して移動しますが、それ以外のメカニズムは基本的に同じです。
まとめ
バケットホイールエクスカベーターは、露天掘りの鉱山で採掘を行うためには理想的な建設機械で、そのおかげで毎日たくさんの鉱石が産出されています。
計り知れないほどの恩恵を生み出している一方で、克服しなければならない問題点があることもお分かりいただけたと思います。
今後、バケットホイールエクスカベーターがどのように進化していくのか、注目していきましょう。