鉄道クレーンにはおもにどのような任務があるのでしょうか。
鉄道建設工事は新たな技術が次々と導入され、鉄道クレーンはさまざまなシチュエーションに対応しています。
ここではシチュエーション別に鉄道クレーンの活用法をまとめてみました。
鉄道クレーンの能力を発揮するさまざまなシチュエーション
鉄道クレーンには、おもに以下のような任務があります。
・分岐器の交換
・軌きょう、ラダー軌道の敷設
・線路下の掘削のための工事桁の架設と撤去
・事故時の脱線車の復旧
・車重を活かした地固め走行
古くから鉄道クレーンが使用されている工事としては橋梁工事がありますが、近年では鉄道クレーンが使用されるよりも、橋梁工事専用の機械が使用されることが多くなっています。
また、近年増えている軌陸クレーン車という新しいタイプの機械もあり、旧来の小型鉄道クレーンが担っていた役目を果たしています。
以下で、それぞれのシチュエーションごとに鉄道クレーンの活用法の詳細をご紹介します。
分岐器の交換
鉄道クレーンが最も活用される作業の1つが分岐器の交換です。
分岐器とは、線路が分岐している地点において列車の進路を選択することができる切り替えポイントのことです。
分岐器の交換は、分岐器全体を1つの集合体としてクレーンで吊り上げることにより、まるごと交換することができます。
JR東日本が所有し、近年活躍してきた鉄道クレーンのスーパービートルが導入された目的も、おもな任務は分岐器の交換でした。
旧来の分岐器を撤去し、次世代の分岐器を新たに敷設する工事は東京都内各地で行われ、鉄道クレーンの活用で作業時間を大幅に短縮した実績を挙げています。
軌きょう、ラダー軌道の敷設
鉄道の線路には旧来の枕木を敷いたタイプの軌きょうと、線路に平行に枕木が敷かれた新しいタイプの軌道であるラダー軌道があります。
鉄道クレーンはそのいずれの敷設にも活用され、優秀な並行吊り上げ能力により、劣化した線路を改良する工事で多くの実績を挙げています。
鉄道クレーンによる軌きょうの敷設は、たとえば品川駅の車両基地部で2,300mもの長大な改良工事を行った実績があります。
またラダー軌道の敷設は横浜駅の工事などで多くの実績を挙げており、次節で説明する工事桁を使用した工法で建設されました。
工事桁の架設と撤去
工事桁とは、線路の下を横断する構造物を建設する際に使用される桁のことです。
鉄道クレーンは工事桁の架設に用いられ、線路下の構造物が完成した後に工事桁を撤去する際にも再び鉄道クレーンが用いられます。
工事桁の架設と撤去は、近年では横浜駅と新宿駅の線路下掘削に利用されました。
また、リニア中央新幹線の品川駅工事においても工事桁が利用され、その建設に鉄道クレーンが大きく貢献しています。
近年は工事桁を撤去しない工法も
旧来から使用されている工法では、線路下の構造物が完成した後には工事桁を撤去することが一般的でしたが、桁の組み立てと撤去に手間がかかることが問題視されていました。
そこで近年新たに導入された工法が「本設利用PC工事桁工法」と呼ばれるもので、線路下の構造物が完成した後も工事桁を構造物の一部としてしまうものです。
本設利用PC工事桁工法は新宿駅での工事などで実績を挙げています。
脱線車の復旧
鉄道クレーンの水平吊り能力を最も発揮できる任務の1つとして、脱線車の復旧があります。
起きてはならないことですが、鉄道には脱線事故はつきものであり、想定しておかなければならない任務の1つで、素早い復旧は鉄道インフラの維持に不可欠です。
脱線車の復旧は、電化されている路線では架線に接触しないように作業する必要があり、鉄道クレーンの優れた水平吊り能力ならば可能なのです。
橋梁工事
鉄道クレーンが使用され始めたきっかけの1つに、橋梁工事があります。
日本で最初の本格的な鉄道クレーンが造られたのも橋梁工事を行うためであり、国鉄が所有していた鉄道クレーンも「ソ300形」までは、橋梁工事がおもな任務でした。
近年はさまざまな工法や建設機械が開発されているので、鉄道クレーンが橋梁工事に出動されることは老朽化した橋桁の交換作業などを除くと、ほぼなくなりました。
しかし災害時などには橋梁工事にも出動する可能性はあり、その潜在能力は十分に秘めています。
地固め走行
鉄道クレーンは大変重い車重があるので、新たに建設された路線の地固め走行にも使用されます。
クレーン本来の能力を活かす任務ではありませんが、鉄道クレーンの特徴を活かした任務ではあります。
軌陸クレーン車の活用
近年、道路と軌道の両方を走行が可能となるよう改造された軌陸クレーン車と呼ばれる機種が、従来の小型鉄道クレーンに替わって活躍しています。
災害で道路や線路が通行不可能になった状態では特にその能力を発揮し、素早い復旧作業を行うために多くの軌陸クレーン車が導入されています。
土砂災害や大地震が頻発する日本では、軌陸クレーン車はもはや欠かせない存在になっているのです。
まとめ
鉄道クレーンが活用されるシチュエーションは線路に関する業務が最も多いことが分かります。
従来の工法では大変な時間がかかった工事も、鉄道クレーンの性能の向上や新しい工法の開発によって作業時間が大幅に短縮されました。
事故や災害の対応も鉄道クレーンの重要な任務で、鉄道クレーンと近年増えてきた軌陸クレーン車との役割の分担が進んでおり、時代のニーズに合わせて進化していくでしょう。