皆さん、ズリ鋼車と呼ばれる機械の名称を聞いたことはあるでしょうか。
この機械はトンネル掘削時に欠かせない機械として様々な工事現場で使用されています。
今回はそんなズリ鋼車の概要や特徴について解説していきたいと思います。
そもそもズリ鋼車とは?
ズリ鋼車とはどんな工事現場で使われるのでしょうか。ズリ鋼車が使用される現場はトンネルの現場です。
「ズリ」とは建設業界の用語で「トンネル掘削によって発生する土」をいいます。
穴を掘るのだから土が出てくるのは当たり前ですよね。ズリ鋼車とは「ズリを運搬する鋼の車」という意味で名づけられています。
「トンネルの土はダンプトラックで運搬するのでは?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、ダンプトラックでのズリ運搬も一般的です。トンネルの掘削条件によってズリ鋼車を使うのか、ダンプトラックを使うのか判断します。
ズリ鋼車を使用するのは「シールド工法」によって掘削するトンネルです。
シールド工法ではシールドと呼ばれる円形(特殊な条件で円形以外の場合もあります)のマシンで掘削しながらトンネルを造っていきます。
マシンが円形のため掘削したトンネルも円形であるため、ダンプトラックがトンネル内を走行することができません。
さらに、シールド工法では「立坑(たてこう)」と呼ばれる縦穴を掘削して、その中でマシンを組み立ててトンネルを造るため、そもそもダンプトラックがトンネルの中に入れないのです。そこでズリ鋼車の出番です。
ズリ鋼車のズリ運搬は「レール方式」と呼ばれており、トンネル内に設置したレールを電気の力によってズリ鋼車が走行するという方式です。トンネル出口付近の立坑までズリ鋼車にてズリをもっていき、立坑から地上へ搬出します。
ちなみに、昔は道路が整備されていない、そもそもダンプトラックを用意できないなどの理由で、山岳トンネルと呼ばれる山を掘削するような工法でもズリ鋼車によるレール方式を採用していました。
しかし、時代が進むにつれて建設機械の作業効率向上やインフラが整備されたことにより、タイヤ方式が一般的なズリ搬出方法となりました。
ズリ鋼車の種類は?
ズリ鋼車では運搬したズリの搬出方法によって名称が変わってきます。各方式はトンネルによって運搬場所の広さやどれくらいのスピードでトンネルを掘削するかなどが変わってきますので、適した方式を採用します。
〇転倒式ズリ鋼車
名前の通り、所定の位置まで運搬が完了したら、ズリ鋼車自体が横に倒れてズリを排出します。
一般的なズリ鋼車の方式です。
〇底開き式ズリ鋼車
こちらはズリ鋼車の床が開くことでズリを排出する方式です。
クロダテックという建設機械会社が特許を取っている方式です。
〇スライド式ズリ鋼車
こちらはズリ鋼車の車体部分を横にスライドさせて下のズリ集積場所に排出する方式です。
横移動だけのため作業効率、安全性に優れています。
ズリ鋼車のメリット・デメリットは?
続いてズリ鋼車でズリを運搬するメリット・デメリットを説明します。ダンプトラックと比べた形で説明いたします。
メリット
- 運搬する土砂はどんな地質でも運搬可能です
ダンプトラックの場合、水分を多く含んだ地質のズリ運搬は難しいです
- 電気の力により急勾配、急曲線などのトンネルでもズリ運搬が可能
ダンプトラックの場合、勾配が10%程度までしか上ることができないため、勾配の制限が発生します
- 編成台数を増やすことで効率的にズリの運搬を行うことが可能です
ダンプトラックはトンネル距離が長くなると運転距離が長くなるため、作業効率が低くなります
デメリット
- 運搬時にズリがこぼれ落ちるため定期的な清掃が必要
タイヤ方式も清掃は必要なため、どちらの方式でもデメリットとなりえます。
- レール上を走行することから他の手段に比べて保守点検維持が重要です
タイヤ方式ではレール等の保守点検は必要ありません
- 縦断勾配がきついと他の手段に比べて不経済になるとともに、逸走防止装置などの安全対策が必要です
ダンプトラックは上がる勾配に制限はありますが、勾配がきついからといって別の機械を設置したりする必要はありません
このようにズリ鋼車による「レール方式」とダンプトラックによる「タイヤ方式」ではそれぞれメリット・デメリットが存在します。
前述の通り、どちらの方式を採用するかはトンネル掘削工法により判断することとなります。
まとめ
ズリ鋼車の概要、特徴を説明いたしました。トンネル掘削のズリ搬出のためにズリ鋼車が必要だとお分かりいただけたかと思います。
ズリ鋼車の役割は地味に感じるかもしれませんが、仮に故障したりするとトンネル掘削を止めなければいけないようなトンネル掘削に欠かせない建設機械です。
ズリ鋼車を見る機会はあまりないかと思いますが、この記事でトンネル掘削の「縁の下の力持ち」であるズリ鋼車を少しでも知ってもらえると嬉しいです。