鉄道クレーンと呼ばれる特殊な車両をご覧になったことがあるでしょうか。
鉄道好きな方でもなかなかお目にかかることは少ない、希少な車両です。
ここではそんな鉄道クレーンの特徴などを徹底解説します。
鉄道クレーンとは
通称「鉄道クレーン」と呼ばれるものは、正式には「操重車」といいます。
頑丈に造られた台車の上にクレーン部分を積載しており、用途によってさまざまな形をしています。
鉄道クレーンにはおもに3つの役割があり、貨物の取り扱い、線路や架線のメンテナンス、事故時の対応です。
鉄道クレーンの歴史
ここで鉄道クレーンの歴史を簡単にご紹介します。
大正2年、当時の鉄道院に在籍していた土木工学者の那波光雄によって造られたデリックカーが大分県の大野川の橋梁建設用に使用され、15トンの吊り上げ能力を発揮しました。
第一次世界大戦を経て、大正8年に国内で初めての本格的な鉄道クレーン「ソ1形」が那波光雄によって造られ、28.3トンの重量物を吊り上げることが可能になりました。
その後は、昭和3年にアメリカから輸入された「ソ20形」や、それをベースに国産開発された「ソ30形」、ディーゼルエンジンを搭載した「ソ80形」などが活躍しました。
さらに「ソ200形」や「ソ300形」へと大型化していった鉄道クレーンは、特に橋梁工事で能力を発揮し、鉄道網の発展に貢献しました。
しかし、数多く活躍していた鉄道クレーンも近年は道路網の発達により移動式クレーンにその立場を奪われ、現在は鉄道車両としての鉄道クレーンは現役を退きました。
現在は鉄道車両としてではありませんが、JR東日本がGS80-08Tというドイツ製の鉄道クレーンを作業用機械として所有し「スーパービートル」の愛称で呼ばれています。
さらにスーパービートルの後継車としてドイツ製のKRC810Nという車両も2台導入されており、リニア中央新幹線の建設などに使用されています。
鉄道クレーンの特徴
現在使用されている鉄道クレーンは厳密には鉄道ではなく作業用機械という分類になっていますが、スーパービートルやKRC810Nが重量物の吊り上げ作業を担っています。
基本的な構造は道路を走る移動式クレーンと大きな違いはありませんが、鉄道路線上で作業するゆえの特徴もいくつか備えています。
以下で、鉄道クレーンのそれぞれの特徴の詳細をご紹介します。
水平吊り能力が高い
鉄道クレーンは線路上で作業するため、電化されている路線では架線を損傷しないように注意しながら作業しなければなりません。
そのため、移動式クレーンのように荷を高く上げることが難しいので、荷を少しだけ吊って水平に移動させることができるように造られています。
たとえば脱線した車両を線路に復旧させるときには、特にその水平吊り能力が発揮されます。
荷物を吊り上げたままで走行できる
水平吊り能力の高さを表す特徴として、荷物を吊り上げたまま線路を走行できるという点があります。
フリーオンホイール機構という構造により、車体を安定させるためのアウトリガーを出すことなく、荷物を吊り上げたまま安定して走行することができます。
また、スーパービートルには32トンもの巨大なカウンターウェイトを内蔵しているため、脱線した車両を吊り上げたまま任意の場所まで移動することができるのです。
カウンターウェイトを固定することができる
鉄道クレーンは線路内という限られたスペースで作業しなければならないため、周辺の物体に触れないように作業しなければなりません。
そのため、重量バランスを保つためのカウンターウェイトが線路外にはみ出すことを防ぐ必要があり、カウンターウェイトを車体に固定して作業します。
これをカウンターウェイトスルード機能といい、クレーンのブーム部分のみを旋回させて作業できるように造られています。
傾きのある線路上でも水平を保つことができる
鉄道クレーンならではの特徴として、カント(遠心力を打ち消すための線路の傾き)のある場所でも水平を保つことができる点があります。
本来ならば高速で走行することを想定して造られているカントですが、自動補正装置を備えているので、傾いた場所で停止しても安定して吊り上げを行うことができます。
自動補正装置はクレーンの旋回する部分に備わっていて、旋回体のみが線路の傾きに合わせて動作します。
1本のアウトリガーでも安定して作業できる
アウトリガーとはクレーンが倒れないように固定するための脚で、たとえば移動式クレーンでは車体から通常4本のアウトリガーを伸ばし、車体を固定します。
大型の鉄道クレーンにはアウトリガーが備わっていますが、最新型の鉄道クレーンは1本のアウトリガーのみでも安定して作業を行うことが可能です。
アウトリガーの伸縮が比較的自由に可能
鉄道クレーンは線路上という狭い場所で巨大な車体を支える必要があるため、アウトリガーの設置場所が制限されることが多くなります。
そのため、アウトリガーの伸縮が比較的自由に行えるように造られており、作業する現場の状況に合わせて設置することが可能です。
多くの鉄道クレーンは自走することも可能
鉄道クレーンは長距離を移動して現場に向かうときは牽引能力の高い機関車に牽引されて移動します。
しかし作業現場では任意の場所に移動できるように駆動用のエンジンを備えていて、低速ながら何十トンもの巨大な車体を自走させることができます。
基本的に夜間に出動するため目撃することは少ない
鉄道クレーンに限ったことではありませんが、鉄道の工事は車両が通過しない夜間に行われることがほとんどです。
そのため、鉄道ファンでも鉄道クレーンを目撃することは珍しく、その巨大な姿に圧倒されることでしょう。
まとめ
鉄道クレーンは国鉄時代ほどには多くの車両は存在しませんが、現在でもここぞという時に出動してその能力を発揮しています。
現在使用されている最新鋭の鉄道クレーンはドイツ製で、高度な技術が備わっており、おもに人目に付かない夜間に活躍しています。
巨大な車体に秘められた能力は凄まじく、日本の鉄道建設事業を確かに支えているのです。